5 同和問題解決のための施策の推進方向

 

(1)基本的な施策の方向

  四日市市においては、同対審答申を踏まえた3つの特別措置法のもと、同和対策事業を積極的に展開してきた結果、地区住民が総じて低位であるといった生活実態や地区の生活環境は大きく改善された。

しかし、前述の実態調査等の結果からも明らかなように、生活保護受給率や公的年金未加入者などに関する福祉の問題、所得格差や不安定就労などに関する就業の問題、児童・生徒の低学力傾向などに関する教育の問題等、なお課題は残されている。また、地区住民の生活水準の向上や高齢化の進行に伴い、生活要求も多様化してきている。

  さらに、IT社会の到来など新たな社会情勢の変化が、新たな社会的、経済的な格差を生むことも懸念される。

一方、市民の同和問題に関する理解は相当進んできてはいるものの、結婚等における市民の差別意識の解消は十分には進んでおらず、また、昨年も市内において、差別落書きが発生しているという状況がある。

  地区の人口流動に関する特徴として、結婚等を機に地区外へ転出する若年層の多さがあげられるが、このことは地区内における高齢者や低所得者など自立支援を必要とする人の構成比の高さを招いている。ただ、地区におけるこれらの課題は、社会が抱える様々な課題と共通したものであり、それが地区にはより顕著に現れているという現実がある。

  これらの現実を十分認識し、今後の同和問題解決のための施策は、地区に対する新たな差別意識を生み出させないためにも、これまでの同和行政の成果を踏まえ、様々な課題を有する人びとに対する人権尊重の視点に立った取り組みとして展開されるべきである。

 つまり、今後の同和行政は、地区の実態に立脚し、そこから提起される諸問題を地区だけの問題として捉えるのではなく、広く社会に存在する市民の課題として捉え、同和問題の根本的な解決を目指し推進していくべきである。これによって、同和問題解決の取り組みが、普遍性を持ったものとして共感を広げていくことになり、ひいては様々な人権問題を解決していくことにつながるものである。

 なお、今後の同和行政を一般施策として推進していくにあたっては、これまでの成果を損なうことなく、先進的な地方公共団体の取り組みを参考にしながら施策に工夫を加え、円滑な移行を図るとともに、課題解決に向けて迅速かつ的確で効果的な施策の樹立が求められる。

 また、一般施策での同和行政を推進するにあたっては、地区においてその施策が有効であるかどうかを検証していくことが重要である。

 

 

@市民の人権意識の高揚を図るための取り組み

これまでの同和教育・啓発活動の努力により、知識としての同和問題に対する市民の理解は進んだものの、落書き等による差別事象も続いている。また、近年では、インターネットを利用した、新たな地名総鑑にもつながる差別事象も表出してきており、同和問題に対する無理解・無関心や偏見とあいまって、部落差別を助長・容認する社会的な風潮や仕組みが依然として残っている現状がある。

   それゆえに、同和問題の解決は今になお残る重大な課題であるとの認識のもとに、部落差別の不合理性を全市民に徹底して教育・啓発していくことが大切である。

   同時に、人権尊重を人間のあらゆる営みの基本とする文化、いわゆる人権文化を社会全体の風土として築いていく必要がある。そのことは、市民一人ひとりが人権を大切にするという意識を高め、それを日常生活の中での行動規範とすることで、他人の人権問題を自らの人権問題として捉えていくことであり、様々な差別を無くし自己実現ができる豊かな社会を築くことにある。そうした認識のもとに今後の人権教育・啓発活動を展開していくことが求められている。

   今後の学校人権教育の推進にあたっては、これまでの同和教育の理念を据えた新たな人権教育の展開を図る必要がある。特に人権教育の推進役のリーダー育成を図るとともに、世界の人権教育の手法や教材を取り入れながら、就学前の子ども及び児童生徒一人ひとりの自尊感情を高め、自己実現を育む人権教育の展開を図っていくために必要な条件の整備が求められる。

   前述の「市民意識調査」の結果を見てみると、同和教育を受けてきた20代の世代が同和問題を忌避する傾向が見られることから、高校、大学等での人権教育を図るための連携を深めるとともに、公的な社会教育の場において、義務教育終了後の青少年に対し、魅力ある人権学習講座等の開設を推進する必要がある。

   さらに、市民があらゆるライフステージにおいて、自発的に同和問題・人権問題について学習ができるよう、人権尊重の視点に立った生涯学習を進めていく必要がある。それとともに、知識学習型の学習から、知識や態度が行動に結びつくような実践的な学習へと転換を図るため、地域、職場等で活用できる参加体験型の人権教育プログラムや教材の開発をしていくことも重要である。

   また、同和問題解決に向け、根強い差別意識や忌避意識を解消するため、地域住民の交流をキーワードとした学習手法の開発や教材作りを進めていく必要があり、そのための民間を含めた検討機関も考えていく必要がある。

   次に、「同和問題解決のための実態調査」の結果からは、「職場での被差別体験」は増加傾向を示しているところから、企業には、公正な採用による就職の機会均等と職場での人権問題についての正しい理解と認識が一層求められており、今後とも四日市人権啓発企業連絡会を中心に研修等が積極的に推進されるよう支援・連携することが重要である。併せて、採用時における個人情報の取り扱いについても厳重な管理を行うよう企業に求めていく必要がある。

   社会同和教育の面においては、22地区に人権・同和教育推進協議会が組織されており、市民啓発の推進に大きな役割を果たしてきている。市においては、今後とも各地区人権・同和教育推進協議会や四日市人権・同和教育研究会(四同研)等と緊密な連携を図りながら、新たな発想と創意による教育・啓発活動が望まれる。

   また、市内には、人権擁護委員や民生委員・児童委員など社会的に重要な役割を担っている地域リーダーや、市民団体、NPO等豊富な人材と組織があり、公的機関とのネットワーク化や一層の連携を図るなどして、差別意識の解消に向けた啓発活動が求められる。

   人権行政の推進については、人権に関わりの深い特定の職業に従事する者(※)が人権問題の解決を自らの課題として認識し、より積極的な対応が取れるよう、人権に関する研修を進める必要がある。

   また、市民の人権意識の深化を計るため、市民を対象とした意識調査を定期的に行うなどして、啓発活動の充実に努めていくことが必要である。

なお、市では、様々な人権問題に関する相談は実施しているものの、人権問題は複雑な要因が絡み合っていることが少なくない。そこで、庁内の人権相談システムの整備に努めるとともに相談員の育成を図っていくことも重要である。

(※)国連10年国内行動計画において、人権に関わりの深い特定の職業に従事する者として、教員・社会教育関係職員、消防職員、検察職員、矯正施設・更生保護関係職員等、入国管理関係職員、医療関係者、福祉関係職員、海上保安官、労働行政関係職員、警察職員、自衛官、公務員、マスメディア関係者の13の業種に従事している者としている。

()リーダー育成をはじめとする、同和教育の理念を据えた新たな学校人権教育の推進

()高校、大学等での人権教育の充実

()青少年に対する魅力ある人権学習講座等の開設

()人権教育プログラム・教材の開発

()四日市人権啓発企業連絡会との連携と研修等への支援

()人権・同和教育推進協議会、四日市人権・同和教育研究会等との連携

()人権擁護委員、民生委員・児童委員、市民団体、NPO等とのネットワーク化や連携

()人権に関わりの深い特定の職業に従事する者への人権研修の推進

()定期的な市民意識調査の実施と啓発活動の充実

()庁内の人権相談システムの整備と相談員の育成

 

 

A地区住民の自立と自己実現、豊かな人間関係の創造を図るための取り組み

 教育については、部落差別を受けている地区住民はもとより、地域の様々な課題を有する子どもや保護者等に対する人権尊重の視点に立った取り組みを通して、それらの人々の自立と自己実現及び豊かな人間関係の創造を図っていく必要がある。

 児童・生徒生活実態調査等から、低学力傾向にある児童・生徒と基本的生活習慣及び家庭における学習習慣の不定着との関係が明らかになっている。このことから、まず、学校における授業づくりや進路指導等の充実、保護者等への子どもの育ちや学びに関する学習機会の提供、個別的な支援などの取り組みとそのための条件整備が求められる。さらに乳幼児期は、人が生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて大切な時期であることから、子どもたちの人権を認め、一人ひとりの人権が尊重される人権の視点に立った保育の充実とともに、家庭環境に配慮した子育て支援や、地域における保育園、幼稚園、家庭、学校等の連携の強化・充実が必要である。

また、課題を有する子どものエンパワーメントを促進する取り組みが重要であり、すべての子どもが様々な課題を自らの課題と重ね合わせ、生き方や生きる力に結びつく人権教育の充実を図る必要がある。さらに、子どもが自立と自己実現を図るため、経済的な理由で進学を断念することがないよう、高等学校等への奨学資金制度等の一層の充実が望まれる。

一方、地域における子どもの育成支援や子どもを中心とした教育活動をより充実させるため、地域の教育力を活用した教育ネットワークづくりを進めるとともに、教育相談体制の充実を図るため、学校、相談機関、社会教育機関、人権擁護機関等が一層の連携に努め、人権に関する相談及び支援体制を再構築する必要がある。

〔教育〕

()低学力傾向の児童・生徒の課題解決に向けた授業づくり・進路指導の充実、保護者等への子どもの育ちや学びに関する学習機会の提供や個別的な支援の取り組みの充実

()乳幼児期における人権の視点に立った保育の充実、家庭への子育て支援、地域・家庭等との連携

()課題を有する子どものエンパワーメントを促進する取り組みと、すべての子どもに対する生き方や生きる力に結びつく人権教育の充実

()地域の教育力を活用した教育ネットワークづくりの推進

()学校、相談機関、社会教育機関等の一層の連携と人権に関する相談・支援体制の再構築

()自立と自己実現のための高等学校等への奨学資金制度等の充実

 

社会福祉について、少子高齢化など社会情勢の大きな変化により、国における福祉サービス提供の考え方は、これまでの行政が決め「措置」するものから、利用者自らが生活を組み立て、事業者を選び、「契約」するものへと移行した。そして、今後の社会福祉が目指す方向を、障害の有無や年齢に関係なく、すべての人が、人としての尊厳と人権が尊重され、その有する能力に応じて自立した日常生活が送れ、心身ともに健やかに安心して暮らしていける社会を実現することとした。

今日、福祉課題を抱える人は特定の人だけではなく、高齢者の介護、子育て支援、障害者の自立と社会参加など、誰もが身近に抱える課題になってきた。このように多くの人々が抱える多様な福祉課題を解決していくためには、行政が行う公的な福祉サービスや事業者の提供するサービスとともに、地域福祉の推進、すなわち、地域住民相互の見守りや助け合いなど、地域住民自らの福祉活動が求められている。そして、行政、福祉サービスを担う事業者、地域住民それぞれが各々の役割を分担し、お互いに協力し合うことで、課題を持った人々も住み慣れた地域社会の中で自立して生活することが可能になると考えられる。

そのような中、行政に求められていることは、福祉サービスが必要であるにもかかわらず利用していない人を誘導するための一層の情報提供や啓発である。そして、それらの人々を発見するために、自治会、民生委員・児童委員などの地域住民や事業者など地域の関係者との情報交換に努め、協力し合う仕組みづくりを進める必要がある。

また、福祉課題を有する人々からの相談業務の充実を図るとともに、地域活動を担う地域住民への啓発、事業者が行う職員研修への支援、調整や相談を受ける行政職員の資質向上に向けた取り組みなど、人材の育成に努力する必要がある。

地区住民の身近な相談窓口である市民会館・教育集会所における相談業務においては、福祉の分野にとどまることなく、教育や就労など様々な分野にわたる総合的な相談活動が求められている。関係機関との連携が重要であることはいうまでもないが、相談課題だけにとらわれることなく相談者一人ひとりの生活をトータルに捉える視点が重要であり、担当者の一層の資質向上を図るなど、住民が安心して相談できるよう努めることが大切である。

生活保護受給率に関しては、依然、全市平均との間に大きな格差があるが、経済的自立という側面からの支援に合わせて、特に大半を占める高齢者世帯に対しては、生きがいや健康といった人間の尊厳と人権尊重の観点から支援を行うことが重要である。また、生活保護を受給している高齢者には、無年金や年金受給額が少ないケースが多いことからも、年金未加入者の逓減等のために、年金制度についての啓発や就労支援、個々のニーズに応じた相談などの取り組みに、関係機関と連携を図りながら一層努める必要がある。

保健分野においては、急速な高齢化の進展に対応できるよう、地域住民の健康の保持・増進及び健康寿命の延長を目的とし、健康意識の高揚を図る啓発事業や生活習慣病をはじめとする疾病の早期発見のための基本診査・各種検診を実施する必要がある。少子化への対応としては、心身とも健全な子育てを支援するため、乳幼児の健康診査などの充実を図る必要がある。また、育児不安の解消や虐待防止など多様なニーズに対応するためには、保健分野だけではなく、児童福祉との連携を密にした支援に努める必要がある。

〔社会福祉など〕

()公的福祉サービスの提供

()行政、事業者、地域住民の役割分担と相互協力による地域福祉の推進

()必要な福祉サービスを利用していない人を誘導するための一層の情報提供、啓発の推進

()必要な福祉サービスを利用していない人を発見するための仕組みづくりの推進 

()相談業務の充実と、地域活動を担う地域住民への啓発、事業者が行う職員研修への支援、職員の資質向上に向けた取り組みなどの人材の育成

()市民会館・教育集会所における関係機関との連携と総合的な相談活動の推進

()生活保護受給の高齢者世帯に対する健康・生きがい面での支援の推進

()年金未加入者逓減のための啓発、相談業務の実施、就労支援

()健康意識の高揚を図る啓発事業の実施

()疾病の早期発見のための基本診査、各種検診の実施

()乳幼児の健康診査などの充実

()保健と児童福祉の連携による子育て支援

 

就労については、国は、国家として経済対策、景気対策を実施し、国民の安定した生活の場の確保に努めるとともに、直接的な失業対策として、公共職業安定所の業務を遂行している。また、県は能力開発や国と市との調整等を行うことでその役割を果たし、市は既存企業の新規設備投資の誘発や新規の企業立地の促進、さらに中小企業の新事業展開への支援など、主に地域産業の振興を図ることで、住民の雇用の場の確保に努め、その役割を果たしている。

こうした中で、雇用対策法の改正により、地方自治体には国の施策と相まって雇用施策を講ずることが求められている。市としても、就職困難層の実態の把握に向けて検討を深めるとともに、県が作成する地域雇用開発の促進に関する計画に就職困難層に対する施策が反映されるよう働きかける必要がある。

また、雇用に関する現状は、各行政機関が各々の役割を果たしても、現実には部落差別を受けていること等により就職が困難で、さまざまな課題を有する住民が存在している。こうした住民の就労を促進するため、その声を聞き、各行政機関が各々の役割を発揮しながらも、互いに連携し機能を補い合いながら、住民自身の努力を支援することでより一層就労の促進を図っていくことも必要となっている。

市としては、先に述べたとおり地域産業の振興を図り、安定した雇用の場の確保に努めるとともに、一方では国・県の関係機関が行う事業と連携する意味で、重複することなく、国・県の施策の不十分な面を補うために独自の就労対策に効果的・効率的に取り組むことが必要である。

また、公正な採用選考や雇用の安定を図っていくため、引き続き企業に対する人権啓発や公正な採用選考の推進に積極的に取り組んでいくことも重要である。

さらに、就職が困難な住民の就職活動がより円滑に進むよう、公共職業安定所等の関係機関や地域住民と今後の就労支援の進め方について検討する場を設けるなど、関係者の連携をより強化するとともに、住民自身の就労意欲が喚起されるような対応が望まれる。

〔就労〕

()地域産業の振興と雇用の場の確保

()就職困難層の実態把握に向けての検討と県への働きかけ

()国・県の行政機関との連携による効果的・効率的な就労対策事業の推進

()公正な採用選考や雇用安定のための、企業に対する人権啓発の推進

()就労支援の進め方について検討する場の設定

   

地区の市営住宅については、住宅困窮者への健康で文化的な生活を営むことができる住宅を供給するとともに劣悪であった地区の環境改善を果たした意味において、同和問題解決のための一助であったことは言うまでもない。

   一方、定住のコミュニティを期待する地区において、定住を想定していない市営住宅をまちづくりの手だてとすることは、将来において地区外転出の可能性もありうるという矛盾を抱えていた。さらに、平8(1996)年の公営住宅法の改正に伴う応能応益家賃の導入により、高収入の世帯の転出が促進されたことが、地区外転出を現実のものとしている。

また、特別措置法の失効により、地区の市営住宅が特定目的住宅から一般公営住宅に移行し、入居者募集については、一般公募が原則とされたことから、今後、多種多様な価値観を持った人々の市営住宅への転入が予想される。

そのため、こうした課題や同和問題解決の中心的事業として進められてきた経過、社会的意味を踏まえ、地区の市営住宅については、これまでの地区での取り組みやコミュニティを十分考慮しつつ、一般公募により懸念される差別事象に対する防止、活性化に留意した入居のあり方について、地元と協議することが求められる。

また、ずっと住み続けたい魅力あるまちづくりを進めるためには、多種多様な住宅施策を検討する必要があるが、地区の市営住宅についても、住民主体による総合的な人権のまちづくりに取り組む中で、「公営住宅ストック総合活用計画」を踏まえ、バリアフリー化や建替えなど今後の活用方法を住民参加・協働で検討する場を設けることが極めて重要である。

〔住宅〕

()住民主体の総合的な人権のまちづくりの中での、今後の市営住宅のあり方についての検討の場の設置

 

 

B地区内施設を活用した住民交流を促進するための取り組み

市民会館・教育集会所などの地区内施設は、同和問題の速やかな解決に資することを目的として設置・運営されており、今後も「コミュニティづくり」を推進するための拠点として、地域住民に幅広く利用されていくことが望まれる。

市民会館・教育集会所については、地区住民の福祉向上や人権啓発・住民交流の拠点施設として、生活上の各種相談事業や文化・教養に関する事業をはじめ、人権啓発事業、周辺地区住民との交流事業などが進められてきている。今後とも、同和問題をはじめとする人権問題の学習・啓発や人権情報の発信、関係機関と連携した地区住民の自立支援に向けた生活上の相談、地域福祉の推進を図るとともに、住民交流を通した人権のまちづくりの拠点となる、地域に密着したコミュニティセンターとして、より一層重要な役割を果たすことが期待されている。

そのためには、市民会館・教育集会所が日常的に地域社会全体に広く利用され、開かれた施設となる必要があることからも、より一層周辺地区住民との交流を行い、地域社会における相互理解を促進していくことが強く求められている。

また、交流事業の実施にあたっては、事業の趣旨について周辺地区住民へ徹底した説明と啓発を行うことは当然のことながら、交流を単なる接触に終わらせないようにするための共通目標・課題に取り組むことが重要である。

周辺地区住民との交流やコミュニケーションを図る継続的な取り組みを通じて相互理解を促進するためには、例えば、地区内外が一体となった見守り・助け合いといった地域福祉活動や、学校・家庭・地域が協働し地域をあげて子どもの健やかな成長発達を促す教育活動などといった、人権のまちづくりを展開することによって、様々な生活課題を共に解決していくということが大切である。このように地域コミュニティの形成を図り、住民相互が協力して豊かな人間関係を創造することは、差別意識の解消にも大きな効果がもたらされるものと思われる。

一方、実態調査の結果においては、周辺地区との積極的な交流について、半数を超える世帯が望んでいるものの、「いろいろな条件を整えてから」の交流を望む世帯もおよそ3分の1ある。「いろいろな条件」の中身については、実態調査報告書からは明確に読み取ることはできないが、地区住民が抱える不安の多くは、交流することにより差別を受ける可能性が高くなるということであることは想像に難くないところである。

 今後、市民会館・教育集会所が地域の拠点となって交流事業を進めるにあたっては、地区住民の意見、意向を十分反映しながら、地域社会における相互理解を促進していくとともに、差別に対する不安については、個人によって違いがあることから、きめ細かな相談体制の整備が併せて必要である。

市民会館・教育集会所に併設されている児童集会所については、子どもたちが差別に対する正しい認識と差別に負けない力をつけることを目的として、学習会や進路指導、仲間づくり、交流事業等の活動を進めている。今後は、職員の配置も含め、学校・家庭と連携して個々の課題に対応しながら、学びや仲間づくりを中心とした活動拠点として位置付けていく必要がある。

なお、市民会館・教育集会所における事業を推進するにあたっては、同じく地域活動拠点である地区市民センターとの役割を明確にし、使用料についても検討する必要がある。

最後に、住民交流の促進をはじめとして、同和行政の第一線機関としての市民会館・教育集会所の役割は大きく、機能強化を図る観点から、民間への委託等運営形態の検討も含めて、効果的な人員配置・予算の執行に努めるとともに、平成15(2003)年9月12日、四日市市隣保館運営審議会が答申した「今後の隣保館のあり方について」の提言内容を尊重し、地区の実態や財政状況に応じて、計画的に実現に向けて努力していくことが望まれる。

 

()人権教育・啓発、地区住民の自立支援、人権のまちづくりの拠点施設としての位置付け

()周辺地区住民との交流による地域社会における相互理解の促進

()周辺地区住民への交流事業の趣旨の説明と啓発の推進

()地区住民の意見・意向を十分反映した、共通目標・課題に取り組めるような交流事業の推進

()きめ細やかな相談体制の整備

()児童集会所の職員配置の検討と、児童集会所を子どもたちの学びや仲間づくりを中心とした活動拠点としての位置付け

()地区市民センターとの役割分担の明確化と使用料等の検討

()効果的な人員配置・予算執行による機能強化

()地区の実態や財政状況に応じた、隣保館運営審議会答申の計画的な実現

 

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