4 「同和問題解決のための実態調査」、「人権問題に関する市民意識調査」、及び「児童・生徒生活実態調査」等からみた現状と課題

 

 (1)「同和問題解決のための実態調査」からみた現状と課題

  地区における生活実態や差別を生み出している原因等を調査、把握し、同和問題の早期解決に資することを目的として、平成14(2002)年に四日市市が実施した「同和問題解決のための実態調査」によって明らかになった現状と課題については、概ね次のとおりである。

  なお、四日市市においては、今後とも本調査の結果を十分活用されることが望まれる。

 

 @ 地区における60歳以上人口は28.3%であり、7年前の前回調査時よりも8.5ポイント増加し、全市を上回るスピードで高齢化が進行している。その主な原因としては、結婚等を機とする若年層の地区外への流出があげられる。

   世帯構成に関しては、世帯員の縮小傾向が見られ、単身世帯や2人世帯では、高齢化現象が顕著である。また、都市型の地区における市営住宅の整備は、単身世帯やひとり親と子の世帯を高い比率で現出させた一方、若年層の結婚による地区外への流出をとどまらせている。

 A 地区には、住環境整備事業の実施や住宅新築資金制度の利用による、1970年〜1980年代に建築された住宅が多く、ある程度老朽化が進行している。また、住宅や周辺環境はある程度整備されたものの、生活水準の向上や高齢化の進行によって、今後要求の多様化が予想される。

 B パソコン普及率は、全国と比べ大きな格差が見られる。パソコン所有世帯の約6割がインターネットを利用しているものの、高度情報化社会においては、情報手段を使いこなせる人とそうでない人との間に格差が生じ、それが就労問題等においても格差を生み出す恐れがある。したがって、誰もが情報通信の利便を享受できるような取り組みが必要である。

 C 低所得階層の構成比は全国よりも高く、高所得階層の構成比は全国よりも低い。総じて年間世帯総収入は低位と言える。

また、生活保護受給率は、全市同様、7年前の前回調査時よりも増加しており、依然全市との間には大きな格差が見られる。これは、長引く不況のほか、若年層の地区外への転出を背景とした高齢化と、従来から言われているように、地区には無年金者が多いことに起因している。

 D 介護が必要な人のうち、半数以上が様々なバリアによってほとんど外出をしていないことから、地域での孤立や情報不足を防ぐためにも、ともに地域で生活ができる支援づくりが必要である。また、介護が必要であるにもかかわらず、介護保険制度を利用していない人もおり、そのような人に対する相談や指導等、きめ細やかな対応が求められる。

 E 公的年金未加入率は、年間就労収入が低いほど高く、未加入理由としては、経済的理由や年金制度に対する否定的見解が高い割合となっていることからも、今後未加入者を増やさないような公的年金制度に関する啓発や安定した就労の保障が重要である。

 F 同和対策の奨学資金制度の利用によって、経済的な理由のため進学を断念せざるを得ないという状況はほぼ解消され、また、子ども自身にとっても、高校や大学等へ進学することにより選択肢が広がり、将来の進路に希望を持てるようになったことからも、一般施策での奨学資金制度に関する情報提供などを丁寧に行い、その活用を図る取り組みが大切である。

 G 市民会館・教育集会所を拠点とした周辺地区との積極的な交流については半数が望んでいるものの、いろいろな条件を整えてからの交流を望む世帯も34.5%あり、また、被差別体験のある世帯の方がその傾向が強い。つまり、交流を単なる接触に終わらせないような、「協働」としての取り組みを、市民会館・教育集会所を核として展開していく必要がある。

   また、人権に関する活動でしてみたい内容としては、およそ3割が「人権侵害を受けた人の相談相手」を選択しており、これは、ピア・カウンセリング(同じ立場にある仲間同士によって行われるカウンセリング)の発想による、個人的な関係の相談の大切さを示すものであり、同時に同じ目線に立った信頼される市民会館・教育集会所を期待していることを示唆している。

 H 完全失業率に関しては、男性は全市を若干上回る程度であるが、女性は全市の3倍強となっており、また、男女とも30〜40歳代において全市を大きく上回っていることからも、就労に結びつける総合的な取り組みを講じる必要がある。

また、男性の年間就労収入に関しては、半数が400万円未満であり、所得の低位性は解消されたとは言い難い。これは、不況によるもののほか、若年層の地区外への流出による高齢者層を中心とした不安定な就労状態の多さに起因している。

職業に関しては、ブルーカラー層が多く、ホワイトカラー層が少ないといったかつての傾向は薄れつつあり、これは、若年層において販売従事者やサービス職業従事者として就業する者が増えたことに起因している。また、勤め先の産業に関して、建設業が7年前の前回調査時より大きく減少しているのは、若年層において、建設業よりも卸売業・小売業、飲食業への就職が増えたためである。これらは、雇用形態にも影響を及ぼしているフリーター等の増加といった社会情勢を如実に反映したものである。

 I 前回調査以降の7年間に結婚した27世帯のうち24世帯が「どちらかが『同和地区』の生まれ」であるといったように、通婚率は、12年前の前々回調査時の53.1%から66.8%に増加しているものの、いずれの時期に結婚した夫婦であっても20%前後は反対にあっており、依然として結婚に関しては厳しい差別の現実が存在している。

   反対時に誰かに相談した夫婦は36.4%で、そのほとんどが友人や親族などの身近な人に相談していることからも、差別意識の解消はもとより、結婚差別等における相談機能等の充実が必要である。

 J 本調査における約7割が、被差別体験時に、相手に対して指摘したり何とか伝えたりしたいと考えており、「人権問題に関する市民意識調査」においても、市民の中に部落差別を何とか解決していきたいという能動的な意識が認識されている。このような現状を踏まえて、周辺地区住民との「協働」によるまちづくりなどに取り組むとともに、同和問題に関するより効果的な教育・啓発や市民の人権意識の高揚を図るための取り組みが重要である。

 

 

(2)「人権問題に関する市民意識調査」からみた現状と課題   

同和問題については解決に向けて着実に歩み続けているが、なお、教育・啓発をはじめとした生活全般にわたる課題が残っている。

特に、結婚や就職における差別意識が根強く、また、差別落書きなどの事象も減少しておらず、差別意識の解消が十分進んでいるとはいえない現状にある。

平成11(1999)年度に行った「人権問題に関する市民意識調査」によって明らかになった教育、啓発への現状と課題の概要は大別すると次のとおりである。

 

@ 本調査でも「同和問題についてはじめて知った時期、方法」を尋ねたが、その回答の中で10年前の市民アンケートの回答と比較すると、「近所の人等から聞いた」ことが大幅に減少し、「学校の授業で習った」が大幅に増加している。このことは同和問題を正しく理解し、認識していくことにつながっているところである。

しかしながら、結婚を考える一番多い世代である20歳代になると「啓発活動はむしろやらない方がよい」とする意見が30〜40歳代よりも高い数値を示している。すなわち、同和教育を受けてきた世代が忌避する傾向は、厳しく受け止める必要がある。少なくとも、義務教育終了後から青年期にいたるまでの間の時期において、公的なところでの学習等に接する機会が少ないことも考えられる。

したがって、今後は高等学校、大学あるいは企業において、さらなる教育・啓発活動が必要であり、そのための指導者の育成と、青年達が受け入れやすいカリキュラムによる、継続的な社会教育活動の取り組みが求められている。こうした教育・啓発活動がやがて結実し、結婚時においても差別と立ち向かうことのできる意識が醸成されるものと考えられる。

 A 同和問題の解決には教育・啓発が重要な役割を果たすことは周知のとおりであり、市内全域において、様々な形で地域の特性に応じた学習活動が展開されてきているところである。全市的には、人権を考える月間等での講演会、各地区人権協等での講演会や地区懇談会、PTAや子ども会育成者会等社会教育関係団体での研修会や職場での学習会等が行われ、様々なデータの結果からみても、差別意識の解消に大きな役割を果たしてきたところである。そうした学習会への参加は、「研修参加」の回数が多くなればなるほど、「同和問題は関係ない」とする志向が減少していることからも、今後、研修等への量的参加、とりわけ、自発的参加者の参加率を高めるための方策等について、より一層取り組むべき課題でもある。

 B 「広報紙の人権記事」はかなりの割合で読まれている。「年齢」が高くなるほど、また、「地域活動に熱心な人」ほど読んでいる。こうした地道な活動が大地に水が浸透するように各人の意識の醸成につながり、差別の解消の原動力ともなる人を育てていくことで極めて大切なことであり、メディアとしての機能を十分に生かした密度の高い内容の記事の作成と、新鮮で工夫をこらした啓発方法で推進していくことが求められている。

 C 「同和問題解決のための実態調査」での調査結果にもあるように、被差別体験は減少傾向にあるものの、「職場での体験」は逆に増加傾向を示している厳しい現実がある。 今後、企業内研修の広がりと、内容の充実、指導者の育成を促進し、地区出身者が一人も差別されることのない職場環境を醸成するとともに、地域にあっても、人権尊重都市宣言の趣旨に沿ったまちづくりを進めることができる市民の育成を行政とともに進めていくことが必要である。

 

 

(3)「児童・生徒生活実態調査」からみた現状と課題

地区における小・中学生の低学力傾向の問題を児童・生徒の生活実態及び生活背景からさぐり、その解決方策を考えるという目的で、平成14(2002)年度に実施した「児童・生徒生活実態調査」により明らかになった現状と課題の概要は、次のとおりである。

 

「家庭学習の習慣」「基本的生活習慣」「家庭での過ごし方」「自分専用の持ち物」「こづかいの額とその使いみち」「読書内容」「将来の進学・職業希望」の項目について、地区内外にかかわらず、学習理解度が低いほど多くの課題がみられた。特に、地区低学力傾向の児童・生徒は、その差異がより顕著になっている。

 

@ 家庭での学習時間と学習理解度に大きな関連があり、学力を伸ばす上で、家庭学習の習慣を確立することが大きな課題となる。宿題等を通じて家庭学習の習慣をつけるために、保護者に働きかけ、学習習慣を生み出すための指導(学習環境・時間配分など)を行う必要がある。また、学校では低学力傾向児童・生徒に視点をおいた授業の充実、適切な支援を行い、子どものやる気を育てていくことが、家庭学習の習慣化にもつながるであろう。

A 基本的生活習慣が身についている児童・生徒ほど学習理解度が高くなっている傾向にある。このことは、「三重県学力・生活状況調査報告書」(1994年2月調査実施)にも書かれているように、「基本的な生活習慣を身につけることで、自律性を獲得することにより、学習理解が高まる」と考えられる。子どもたちの基本的な生活習慣を身につけさせる上で、保護者の生活リズムやそれについての考え方が大きく影響するため、児童・生徒および保護者の生活リズムを把握し、基本的な生活リズムを確立し、維持する方法を保護者とともに考えていくことが大切である。

B 家庭での生活のようす(時間の使い方、金銭感覚、持ち物等)についての調査結果からは、学校から帰った後の「テレビ・ビデオ視聴」「テレビゲーム」「勉強」「読書」に費やす時間、「テレビゲームの本」「小説・物語」などの読書内容、「テレビ」や「テレビゲーム」「勉強机」などの自分専用の所有物、「お菓子・ジュース」「参考書」「文房具」「貯金」などこづかいの使いみちで、学習理解度との関連がみられた。これにはさまざまな原因が考えられ、一概には言えないが、家庭での子育ての価値観(保護者の考え)も学力に関係していると考えられる。

C 進路希望・将来の職業希望についての考え方では、低学力傾向の児童・生徒は「まだ決めてない」という回答の割合が高い。また、地区生徒は、大学や高校へ進学しない理由として「勉強したくないから」と回答した割合が高いこと、そして、将来の職業希望に「わからない」という回答が多いことは、留意すべきである。将来の希望を持つことは、それを達成するために今の自分に何が必要なのかを考えるよい機会になり、それが学習の動機づけになっていく。このことは、学校はもちろんのこと家庭でも、親の職業体験や希望などを子どもに語る中でなされるものであろう。家庭と学校が連携しながら、子どもの自己実現に向けての進路指導が大切なのではないだろうか。学力をつけることはもちろん、将来への希望が持てる学習や話を進めていくことも考えていかなければならない。

 

以上のことから考えると、特に「子どもたちの自主性や自立心を培うことが学力を伸ばしていく上で重要」という視点から保護者や教師が子どもにどう関わっていくのかの検討が必要である。と同時に、今回の生活実態調査で、低学力克服に向けて、子どもの生活を見直し、家庭の教育環境を整えていくために、地域、家庭、学校、市民会館・教育集会所が連携して地域の教育力を高めていくことも大切である。

 

以上が3つの調査からみた現状と課題であるが、その他にも次のような現状と課題がある。

@ 学校選択制の検討が行われているが、この制度の導入により、現在進めている地域を中心とした差別解消の取り組みへの影響が懸念される。

A 市民会館・教育集会所の使用料については、原則無料となっているが、地区市民センターの使用料が見直されることから、それらとの整合性を図る必要がある。

B 地区内の市営住宅については、平成14(2002)年3月の法切れによって特定目的公営住宅が一般公営住宅に移行したが、一般公募による入居が原則となることから、様々な人の流入が予想され、自治会活動をはじめ地域コミュニティへの影響が懸念される。

 

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