旧四郷村役場

旧四郷村役場の文化財的価値

一見古いだけの建物のように見えるこの「旧四郷村役場」には、見えるところ見えないところにたくさんの文化財的価値が残されています。ここではどのようなところに文化財的価値があるのか紹介します。

塔のある庁舎

塔は、幕末以降、銀行やホテル、学校、役場の洋風建築の屋根にそびえ、文明開化の代名詞のように新しい建物に用いられていました。一方、建物に付属する塔は、眺望と地域のシンボルを機能するものでもありました。竣工当初、旧四郷村役場の塔の屋根はスレート葺に曲線を描いて、意匠的に特徴ある仕上げが施されていました。
「令和の大修理」では、屋根を黒色のガルバリウム鋼板で葺き、色味を再現しました。

特徴的な外観の構成

旧四郷村役場の外壁は、仕上げが3層になっていて、付柱や付梁で壁面をリズミカルに分節し、上げ下げ窓が等間隔に配置されています。また、付柱や付梁が装飾用として演出されています。こうした建築様式をスティックスタイルと呼び、19世紀にアメリカで流行していました。

和小屋と洋小屋

旧四郷村役場は、現在の正面玄関を中心とした主屋、正面玄関右手の旧事務室がある部分を主屋袖、そして南東にそびえる塔の大きく3つの建物で構成されています。その主屋は和小屋、主屋袖は洋小屋となっています。
和小屋とは、梁に束を立てて屋根を支える屋根構造で、水平荷重に限界があるため、大きな部屋よりも小さな部屋をつくるのに適しています。一方洋小屋は、部材を三角形状に組み合わせて合掌により梁を持ち上げているので、大きな部屋をつくるのに適しています。旧四郷村役場は、主屋と主屋袖でふたつの異なる組み方で造られているところに特徴があります。

リノリウム

 リノリウムとは、(コーヒー豆が入っているような)麻布に亜麻仁油などの植物性の油を塗って作られた内装(カーペットのようなもの)です。国会議事堂など、貴賓室があるようなところに敷かれていて、ここ旧四郷村役場の中央階段にも敷かれていました。旧四郷村役場には当時のものが現存しており、非常に貴重です。

アールデコ調の装飾

アールデコとは、1910年代から30年代にかけてパリを中心に西欧で栄えた装飾様式であり、それまでの絢爛豪華な彫刻等に代わって、幾何学的な模様をモチーフにした装飾様式です。当時の最先端の装飾が施されていたことがわかります。

上げ下げ窓

旧四郷村役場の外壁にとりつく窓のほとんどは、窓袖柱に分銅が入り、分銅と窓とが釣り合うことにより、留め金を使わなくても開閉状態を自由にできるよう施されています。

擬石塗の円柱

1階旧事務室に立つ円柱は、設計図にはかかれていませんでしたが、基礎の状況からみて、建設当初から存在していたと考えられます。当時の左官屋が、大理石をイメージして墨汁を使って描いたマーブル模様で、擬石塗と言われています。当時の左官屋が全員できたわけではなく、限られた技術者のみが使える技法でした。